地域の数だけお雑煮がある!さまざまなお雑煮を見てみよう

お雑煮は一年の無事を祈り、お正月に食べる伝統的な郷土料理です。沖縄を除く日本各地でお雑煮を食べる風習があります。地域の数だけお雑煮があるといわれるほど多種多様で、それぞれ特徴が異なることをご存知でしょうか。地域ごとのお雑煮の違いや、かつおだしやかつお節を使用したお雑煮をご紹介します。

1. お雑煮は地域ごとにどのような違いがあるの?

お雑煮は、だしや味付け、餅の形や具の種類に至るまで、地方や家庭ごとに千差万別で、よく知られているものだけでも、その種類は100を超えるほど多様です。具材の種類や餅の調理の仕方など、細かな特徴にまで着目するとさらに種類は増え、地域の数だけお雑煮の種類があるといわれています(注1)

■味付け・だしの種類の違い
地域によってお雑煮の味付けはさまざまです。お雑煮の味付けは東西で大きく分かれ、東日本ではかつお節や昆布でだしを取り、しょうゆで味をととのえる「すまし汁」が一般的ですが、京都を中心とした関西地方ではみそ味が一般的です(注1)
北海道では明治から大正にかけて200万人が移住したことから、それぞれの故郷のお雑煮が今も受け継がれ、全国各地のお雑煮が見られます。もっとも多いのが、青森や秋田などの東北地方で食べられている、鶏肉でだしを取ったしょうゆ味のすまし汁です(注2)
九州地方ではあご(干しトビウオ)だしを使ったすまし汁を使う地域が多いといった特徴があります(注1)

■餅の種類の違い
日本の東側と西側で餅の形が異なり、その境目は岐阜県の関ケ原辺りといわれています。関ケ原より東の都道県は角餅、西の府県は丸餅が一般的です。日本の餅はもともと丸い形をしていましたが、江戸時代に平たく伸ばした餅を切り分ける方法が生み出されたことや、角餅は運搬に便利なことから、江戸から徐々に広まっていったとされています(※角餅の由来は諸説あります)。
ちょうど境界線上にある、石川、福井、岐阜、三重、和歌山の5県では、角餅を使う家庭と丸餅を使う家庭の2種類が混在しているようです。例外として、東側でも北前船が運んできた京都文化の影響が強い山形県庄内地方と、つきたての餅を年間60日以上食べる習慣のある岩手県一関市は、丸餅が主流です。また、西側でも高知県(土佐)と鹿児島県(薩摩)には、藩主の山内氏、島津氏が長く江戸に留まっていたとされることから、角餅を使う地域があります(注3)。餅の調理法も地域によって異なり、東日本では焼く、西日本では煮ることが多いようです(注1)

2. さまざまなご当地お雑煮をご紹介!

地域によってさまざまな違いがあるお雑煮。ここからは全国各地のお雑煮をいくつかご紹介します。

【北海道】
さまざまな地域から人々が移住したといわれる北海道。北海道に住む人の3分の1強は東北地方にルーツがあります。お雑煮の種類も多種多様です(注2)

■ 札幌のお雑煮
札幌では主に、鶏ガラだしに砂糖を加えた甘めのすまし汁に、焼いた角餅を入れたお雑煮が主流。青森・岩手・秋田などにルーツを持つ家々に共通したお雑煮で、北海道でもっとも多い形態タイプです。具材は鶏もも肉、大根、にんじん、ごぼうの千切り、油揚げ、しいたけ、ナルト(ツト※)などです(注1,2)
※ツト…なると巻の一種で、切り口が渦巻ではなく「つ」の文字になっている

■道南のくじら汁
道南地域では、お正月が近づくと大鍋に塩くじらと野菜を煮こんで「くじら汁」を作り、正月の三が日に食べる習慣があります。基本的な味付けはしょうゆ味が一般的で、塩くじらの脂身を豆腐と山菜や大根、ねぎ、しいたけ、里芋などの野菜と合わせて煮こみます。家庭によっては、塩味やみそ味で作る場合もあります。くじらは昔から縁起物とされており、特に北海道ではにしんを浜に追い込んでくれることから、その年の大漁を願うと共に、巨大なくじらの姿にあやかって大物になれるようにと、古くから年越しや正月料理として食されていました(注4,5)

【東北地方】
■岩手の宮古くるみ雑煮(くるみ餅)
三陸沿岸の宮古地方でお正月の朝に食べられる代表的な料理。煮干しだしの汁に焼いた角餅を入れた具だくさんなお雑煮で、鶏もも肉、高野豆腐、大根、にんじん、ごぼう、いくらなどの具材が入ります。岩手県の宮古地域では、お雑煮の餅を取り出して、甘いくるみだれにつけ、2種類の味を楽しむ特徴があります(注1,6)

【関東地方】
■東京の江戸雑煮

香ばしく焼いた餅にかつお節と昆布で取ったすまし汁をかけるのが特徴で、しょうゆ、みりんをしっかりきかせた味付けです。具材は鶏もも肉、しいたけ、小松菜、にんじん、三つ葉など。小松菜がほうれん草であったり、かまぼこがナルトであったりと地域で具材は少し異なります(注1,7)

【中部地方】
■愛知の名古屋雑煮

角餅と尾張地域の伝統野菜であるもち菜をすまし汁でいただく、シンプルなお雑煮です。しょうゆ風味のすまし汁に角餅、愛知県の伝統野菜であるもち菜、鶏肉を入れ、かつお節を乗せて食べるのが一般的で、もち菜の代わりに小松菜を使うこともあります。
戦国時代の激戦地であったことから、白い餅を焼くことが「城が焼ける」ことにつながり、縁起が悪いとされたため、餅は焼かずにかつおだしで煮て柔らかく調理します。愛知県内はもとより、近隣の広い地域で食べられているようです(注1,8)

■福井のお雑煮

福井県のお雑煮は、板昆布を敷いた鍋に水を入れ、丸餅を煮て、みそで味付けをして、最後にかつお節を乗せるシンプルなものです。具は、かぶや大根、白菜、里芋を入れるところもありますが、具なしのところも多いようです。このかぶは「株を上げる」という縁起かつぎという説もあります(注9)

【関西地方】
■京都の白みその雑煮

京都のお雑煮は、かつお節と昆布でだしを取る「白みそ仕立てのお雑煮」です。具材には、皮をむいてゆでた頭芋(かしらいも:里芋の親芋のこと)や大根、ブランド京野菜の「金時人参」などを使います。「家庭円満」「物事を丸く収める」といった願いをかけ、具材をすべて丸く切る地域や家庭もあるそうです。餅は焼くこともありますが、白みその風味を邪魔しないように、ゆで餅にすることも多いようです(注1,10)

【中国・四国地方】
■岡山のブリ雑煮

岡山県の海に近い南部エリアでは、お雑煮にブリを入れるのが定番。ブリはヤズイナダ、ハマチ、ブリと成長するたびに名前が変わっていく出世魚で縁起が良いとされ、おめでたい席の料理に用いられます。その他の具材として、ほうれん草や大根、にんじん、ごぼう、百合根など根菜類が多く用いられます。南部エリアではだしをかつお節と昆布で取りますが、北部のエリアではスルメで取るのも特徴的です(注11)

■香川の白みそあん餅雑煮
香川県ではいりこのだし汁であん餅を煮て、白みそで仕立てたお雑煮が食されてきました。具材は里芋、金時にんじん、大根など。野菜は「家族が仲良く円満でありますように」「今年一年丸く収まりますように」といった願いを込めて輪切りにされます。
江戸時代にかつての高松藩の特産品で管理が厳しかった砂糖の「和三盆」を、庶民が役人にばれないようにあんこに練り込み、せめて正月だけは味わいたいという願いから、お餅の中に隠して食べたのが由来といわれています(注1,12)

【九州地方】
■長崎の具雑煮/島原具雑煮

島原具雑煮は、島原を代表する郷土料理のひとつ。全国的にも珍しい、土鍋で作る山の幸・海の幸を合わせて煮て食べる具だくさんのお雑煮として知られ、これを食すことを目的に島原を訪れる観光客も多いほど人気があるお雑煮です。だしの取り方は各家庭で異なりますが、かつお節、昆布、干ししいたけなどがよく使われています。土鍋に張っただし汁に具材を入れて炊き、そのまま食すスタイルが定番です。入れる具材は作る家庭によってさまざまですが、丸餅、鶏肉、白菜、にんじん、ごぼう、干ししいたけ、高野豆腐を入れるのが一般的で、焼きアナゴや卵焼きを定番の具材とする家庭もあるそうです(注13)

3. お雑煮は受け継いでいくべき郷土料理

お住まいの地域の伝統的なお雑煮に改めて目を向けてみると、さまざまな発見があるのではないでしょうか。
一杯のお雑煮には、その地域の歴史や文化、暮らしの知恵が息づいています。

ご家庭の味はもちろん、時にはほかの地域のお雑煮を味わってみるのも良いかもしれません。そして、次の世代に伝えていくことも大切にしていきたいですね。

この記事の監修者

藤橋ひとみ

株式会社フードアンドヘルスラボ 代表取締役、管理栄養士。

東京大学大学院医学系研究科修了、発酵食品に関する栄養疫学研究で博士号(医学)を取得。すべての人が毎日の食事で心身のトラブルを予防・改善できる社会の実現を目指し、講演活動やメディア出演、コラム執筆などを通して科学的根拠に基づく食と健康の情報を発信している。
HP:https://is-food-health-labo.com/